M1 IN |
アルエット |
私たちの新しい基地には、不思議な色に光るベビーエルフさんがいました。
ある日、ゼロが作戦のお土産にもう1人ベビーエルフさんをプレゼントしてくれました。
2人のベビーエルフさんは、なんだかほんとの双子みたいで、いつも楽しそうにきらきらしてて、それを見てると私まで嬉しくなっちゃって。
シエルお姉ちゃんのお仕事の邪魔になっちゃうのはわかってるんだけど、また今日も・・。 |
M1 OUT |
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―――シエルの部屋 |
SE カタカタとキーボードを叩く音が響いている。
M2 IN
シエルが研究をしている傍らで、アルエットがベビーエルフに話している。 |
アルエット |
でしょー。ふふっ。それでね、でね、メナートって子がいっつも私にいたずらしてくるの。
この間もね、この子の腕をひっぱられて少しほつれてきちゃってるの。もー。ふふっふっ。
でもー、その後は決まってロシニョルおばさんに叱られるんだけどねー。
ベビーエルフさんたちはいたずらなんかしない、優しい子になってねー。
あ・・そっか。いつまでもベビーエルフさん・・って呼ぶのはおかしいよね。ね!シエルお姉ちゃん!何かいい名前・・ないかな? |
M2 OUT |
シエル |
(話が聞こえていないほど研究に熱中している)このベビーエルフ・・調べれば調べるほど新しいことが見つかるわ。一体この小さな体のどこに、こんなエネルギーを生み出す力があるのかしら。 |
SE キーボードを叩く音が響いている。
M2 IN |
アルエット |
あっ・・私の名前はね、シエルお姉ちゃんがつけてくれたんだよ。
すっごく気に入ってるんだー。ね!シエルお姉ちゃん!ベビーエルフさんの名前、どんなのがいいと思う? |
M2 OUT
SE キーボードを叩く音が響いている。
シエルは研究に没頭していて気づかない。 |
アルエット |
シエルお姉ちゃん・・最近ずっと研究で忙しいんだよ。昨日も夜遅くまで起きてたって、セルヴォさんが言ってたよ。 |
M2 IN
SE キーボードを叩く音が響いている。 |
アルエット |
でも・・人間はちゃんとお休みしないと、お熱が出ちゃうから・・心配なの。そうだ!オペレーターのお姉さんたちならいい名前考えてくれるかも!シエルお姉ちゃん、研究頑張ってね。 |
アルエットは部屋を出ていく。
SE 扉の開閉音
M2 OUT |
シエル |
あら・・? |
SE 椅子が動く音 |
シエル |
ひょっとしてアルエットが遊びにきてたのかしら。あん、だめねー。また研究に夢中になりすぎて、あの子の相手になれなかった。
これじゃあネオ・アルカディアの人たちと同じ。周りの人を気遣う余裕がないなんて。あの子はこれまでも辛い思いをしてきたっていうのに・・。 |
|
|
―――コマンダールーム |
SE 扉の開閉音
M3 IN |
アルエット |
あのー。 |
ジョーヌ |
あら、アルエットちゃん。いらっしゃい。 |
ルージュ |
アルエットさん。ここは非戦闘員の立ち入りが禁止されているのは知ってますね。 |
アルエット |
ごめんなさい!でも、ここ通らないとシエルお姉ちゃんの部屋に行けないんだもん。 |
ジョーヌ |
ほんとこのレジスタンスベースってこういうところが不便なんだよねー。 |
ルージュ |
それなら仕方ありませんね。ところで何か御用ですか? |
アルエット |
あっ、そうだ。シエルお姉ちゃんのとこにいるベビーエルフさんたちに名前を付けてあげようと思って。 |
ルージュ |
名前ですか。 |
ジョーヌ |
ベビーエルフの? |
アルエット |
一生懸命考えたんだけど、全然いい名前浮かばなくて・・。 |
ジョーヌ |
で、私達のところに来たんだ。 |
ルージュ |
わかりました。では、2体のベビーエルフの名前ということで対になる言葉をいくつかピックアップしてみます。 |
SE キーボードを叩く音が響く。
SE コンピューターの音 |
アルエット |
あ・・お願いします。大丈夫かなー。 |
M3 OUT
M4 IN
SE コンピューターの音 |
ルージュ |
お待たせしました。アノートとカソードはどうでしょうか? |
アルエット |
それは、どういう言葉なの? |
ルージュ |
電子管や電解層の陽極と陰極を意味する言葉です。エルフのような電子的な生き物の呼称としては最適なのではないかと思います。 |
アルエット |
・・ちょっと難しいかも。 |
ジョーヌ |
あ、それだったら・・プラスとマイナスでもいいんじゃない? |
M4 OUT |
アルエット |
ええー。 |
ジョーヌ |
あっ、冗談冗談! |
アルエット |
あ、あの!そういう難しいのよりも昔の本にあるような・・。 |
M2 IN |
ルージュ |
本!ああ・・人間の使う旧世代記録媒体ですね。それでは・・・・クライムとパニッシュはどうでしょうか?19世紀ロシアの文豪ドストエフスキーの代表作、罪と罰からです。推理、心理、恋愛的要素を内包した宗教的な影響が色濃くうかがえる文学としてではなく、当時のロシア社会主義、そして、未来社会に向けての刑訴の作品、啓蒙的思想書ともいえる本作のタイトルは、無神論革命思想にもとづく殺人行為による魂の救済はあらゆる角度でテーマをコントラストに鮮やかに表現して・・(延々と説明が続く) |
アルエット |
あ・・あの・・あ、あんまりかわいくないんです・・。 |
ジョーヌ |
あっ、かわいいのだったら・・ラブ&ピースなんてどう? |
アルエット |
あ・・ふふっ・・ちょっとかわいいかも。 |
笑いあうアルエットとジョーヌ。 |
ルージュ |
アルエットさん! |
M2 OUT |
アルエット |
はい! |
ルージュ |
かわいいものがよいのでしたら、アスールルナとロッホソルはどうですか?青い月と赤い太陽という意味で・・ |
M2 IN |
ルージュ |
21世紀初頭のソフトウェアにつけられていた名称のようです。 |
アルエット |
あー。 |
ジョーヌ |
あっ、嫌だったら、ブランとノワールなんてどう?白と黒。はっきりしてて覚えやすいでしょー? |
アルエット |
あー・・。 |
ルージュ |
他には、テクノスとタナトスとか・・。 |
アルエット |
あ・・。 |
ジョーヌ |
ちょっとちょっとお。ルージュのはねえ、堅苦しいのが多いのよ。アルエットちゃん困ってるじゃなーい。 |
アルエット |
そんな・・ |
ジョーヌ |
それよりー。セレッソとかビルゴみたいに単純なのがいいと思うんだけど。ね!アルエットちゃん! |
アルエット |
え・・。 |
ルージュ |
ジョーヌ!あなたさっきから私に文句ばかりつけてきて、白だの黒だの桜だの乙女だのってふざけてるの?大体あなたはいつもいいかげんなのよ。この間も転送座標の入力を間違えそうになってたじゃない! |
アルエット |
あのー、ル、ルージュさーん。 |
ルージュ |
あのまま転送してたらゼロさん今ごろデュシス遺跡の壁の中よ! |
アルエット |
ねえー。 |
ジョーヌ |
ああーー! |
アルエット |
ジョ、ジョーヌさーん。 |
ジョーヌ |
そのこと内緒にしておいてくれるって約束したじゃないー! そんなこと言ったら、ルージュの立てる正義の一撃作戦のシミュレーションだって、一見緻密に計算されて完璧なプランに見えるけど、入力パラメーターをちょっといじっただけで全然役に立たないじゃない! |
アルエット |
わ・・私の・・せいなのかな・・あー・・。ご、ごめんなさあーーーい! |
SE 扉の開閉音 アルエット出ていく。
ルージュとジョーヌ、それに気づかずに口論し続けている。 |
ジョーヌ |
表面上だけじゃなくって、もっとしっかり検証してほしいわー。 |
ルージュ |
そんなこと今は関係ないでしょ!ところであなた、エルピスさんに頼まれた仕事は終わったのかしら? |
ジョーヌ |
うっ。 |
ルージュ |
後で間に合わないって泣きついてきても知りませんからね。 |
ジョーヌ |
ル、ルージュこそ話をすりかえないでよ!いつも都合が悪くなったら話をすりかえてはぐらかすんだから!あなたの悪い癖よー! |
ルージュ |
なんですって! |
ジョーヌ |
なによー! |
M2 OUT |
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―――廊下 |
SE 走ってくる足音
M1 IN |
アルエット |
はあ、はあ、はあー。困ったなー。 |
SE カツンカツンと歩く足音(アルエットは考えてて気づかない) |
アルエット |
ロシニョルおばさんはデュシスの森から戻ってきた人たちの手当てで忙しいし、ダンドさんは正義のなんとか作戦に行くって言ってたからだめだし、イブーさんはいっつもエネルゲン水晶のことばっかり・・。 |
SE カツンカツンと歩く足音 |
アルエット |
メナートは・・あ、だめだめ!どうせまたいたずらされるに決まってるもん。新しいレジスタンスの人たちはみんな忙しそうだし、それに・・ちょっとこわいし。あーなんで私あの子たちの名前じゃなくて相談する人で悩んでるんだろ。 |
SE カツンカツンと歩く足音 |
アルエット |
誰かすごーく物知りで、で、すごーく忙しくない人・・いないかな。 |
SE カツンカツンと歩く足音 アルエットはアンドリューに気づく。
M1 OUT
M4 IN |
アルエット |
あ!おじいちゃーん!アンドリューおじいちゃーん! |
アンドリュー |
お嬢ちゃん、すまんが今日はクリームパンは売り切れじゃよ。ジャムパンなら、少しは残ってるんじゃがなあ。 |
アルエット |
あー私パンを買いにきたお客さんじゃないです。アルエットです。 |
アンドリュー |
おお!すまんかった。アルエット・・じゃったな。 |
アルエット |
おじいちゃんって、いつもいろんなお話してくれるでしょ。 |
アンドリュー |
うん。時間があったらわしの話を聞いてくれんかのう。 |
アルエット |
うん。 |
アンドリュー |
こう見えても、昔は学校の先生をしておったから。あの頃も子供達に色々教えてほしいとせがまれたもんじゃ。ちなみに先生の前はパン工場(こうば)で働いておったのだ。 |
アルエット |
あのー。 |
アンドリュー |
その前は、たしか船乗り・・じゃったかの。 |
アルエット |
あの、おじいちゃん? |
アンドリュー |
このレジスタンスベースは、海が近いので船乗りじゃった頃を思い出すんじゃよ。 |
アルエット |
そうじゃなくて! |
M4 OUT |
アンドリュー |
は? |
アルエット |
お、教えてほしいことがあるんだけど・・。 |
アンドリュー |
はあ。何を教えてほしいんじゃ? |
M4 IN |
アルエット |
シエルお姉ちゃんのとこにいるベビーエルフさんたちに、名前をつけてあげようと思って。 |
アンドリュー |
名前?お前さんはアルエットじゃろが。 |
アルエット |
私の名前じゃないよ。ベビーエルフさんの名前。 |
アンドリュー |
お?ベビーエルフにつける名前とな?それならそうと早く言わんか。
ベビーエルフの名前じゃったら・・子供の名前がいいかの? |
アルエット |
そうね。 |
アンドリュー |
あれはわしが学校の先生をしておったときのことじゃ。
受け持ったクラスにとても仲のいい2人の人間の女の子がおっての。姉妹でもないのに双子のように似ていて、とても可愛らしい子供達じゃった。 |
アルエット |
そう・・それで2人の前は何ていう・・あ・・。 |
アンドリュー |
あの頃はまだ人間の子供とレプリロイドの子供が一緒に授業を受けておった。レプリロイドの子供は勉強を覚えるのが早く・・ |
アルエット |
はあ・・。 |
アンドリュー |
運動もある程度のことは簡単にこなすんじゃが、人間の子供はそうはいかん。 |
アルエット |
あのー名前はー? |
アンドリュー |
特にその2人は勉強も成績があまりいいとは言えんかったし、運動もできるほうではなかったんじゃ。
当然のようにまわりのレプリロイドの子供達から、いつもからかわれておってのー。わしが注意をしても、しばらくしたらまーたからかいおるんじゃ。 |
アルエット |
えーと・・。 |
アンドリュー |
だがその2人にも、1つだけ取り得があった。歌を歌うことが好きでの。 |
アルエット |
あ、お歌ね・・。 |
アンドリュー |
休み時間になると、教卓をステージ代わりにしてみんなに聞かせておった。 |
アルエット |
お歌の名前はなんていうの? |
アンドリュー |
そのときだけは誰もその2人をからかわずにみんなで楽しそうに聞いておったんじゃ。
そりゃそうじゃ。レプリロイドは歌を歌うことができんからの。歌のように聞こえておるのも、結局は記録した音声をただ再生しておるだけ。歌を歌うことは人間だけができることじゃから。
レプリロイドの子供達はその2人が、うらやましかったんじゃの。自分の気持ちを自分の言葉で歌にすることができる・・ |
アルエット |
はあ・・。 |
アンドリュー |
そういえば!昔わしが愛した人間の娘も歌を歌うのが好きじゃった。あれは・・まだわしが船乗りをしておったときのこと・・ |
アルエット |
はあ・・。 |
アンドリュー |
たしか・・ |
アルエット |
おじいちゃん! |
M4 OUT |
アンドリュー |
あ?おお。話がそれちまったの。 |
M4 IN |
アンドリュー |
2人が歌を聞かせておったところまでじゃったかの。
しばらくして、レプリロイドの警備隊が組織されることになって、わしは学校の先生をやめなければならなくなったんじゃ。イレギュラーの犯罪が多くなったとかで警備を強化しないといけないというのが理由だ。 |
アルエット |
うう・・もうー。だから、名前はー? |
アンドリュー |
来る日も来る日も辛い警備の仕事に追われ、やがてわしはその2人のことを忘れてしまった・・ |
SE 扉の開閉音 ゼロを見つけるアルエット。 |
アルエット |
あっ・・ゼロー! |
SE 足音 ゼロに走り寄るアルエット。
後ろでアンドリューの会話が延々と続く。 |
アンドリュー |
何年かたってから、たまたま応援で駆けつけた警備の現場で、その2人にわしゃ再会したのじゃ・・(延々と話続けている) |
アルエット |
えっと、シエルお姉ちゃんのとこにいるベビーエルフさんたちに名前をつけてあげようと思って。ね、ゼロはどんな名前いいと思う? |
ゼロ |
さあな。 |
アルエット |
えー。ちゃんと考えてよー! |
ゼロ |
オレにそんなことを聞いて、どうしようっていうんだ。 |
アルエット |
だって、2人目の子はゼロが助けてくれたんでしょ。あの子を見つけたときってどんな感じだったの? |
ゼロ |
見つけたのは、暗い遺跡の奥だ。ベビーエルフを取り返そうとしてきた、ネオ・アルカディアのレプリロイドと、オレは戦った。たしか、蛇のような姿をしたヤツだったな。狭い足場を自在に操る、戦いにくい相手だった。 |
アルエット |
違うの。
そうゆうのじゃなくって、かわいいなーとか、きれいだなーとか。 |
ゼロ |
不気味なヤツだったな。 |
アルエット |
うえ・・。ゼロのバカーーーっ! |
M4 OUT
SE 足音 アルエット走り去る。
アンドリューは自分の話を聞いてくれてなかったことに気づく。 |
アンドリュー |
なんじゃ。最近の若いもんはろくに話も聞いてくれんのか。 |
ゼロ |
・・違うと思うぞ。 |
|
|
M5 IN |
アルエット |
はあー。みんなあの子たちのことなんてどうでもいいのかなー。 |
SE 扉の開閉音 |
シエル |
アルエット! |
SE 足音 シエルがアルエットに駆け寄ってくる。 |
アルエット |
あ・・シエルお姉ちゃん。 |
シエル |
ごめんね。みんなから聞いたわ。あの子達にもちゃんと名前つけてあげないとかわいそうだよね。 |
アルエット |
うん・・いいの。あ、ねえ、シエルお姉ちゃん。あの子たち、みんなの役に立ってくれるんだよね。いい子たちなんだよね。 |
シエル |
そうよ。あのベビーエルフ達を研究すれば、きっと新しいエネルギーのヒントが見つかると思うの。 |
アルエット |
よかったあ。私ね、いつもあの子たちが新しいエネルギー作ってくれますようにってお祈りしてるんだよ。 |
シエル |
ありがとう。私も頑張るわ。 |
アルエット |
あの子たちにもお祈り届くといいなー。 |
シエル |
あ!そうだわ、アルエット。ベビーエルフの名前、あなたの思ってることをそのままつけてあげればいいんじゃないかしら。 |
アルエット |
私の思ってること? |
シエル |
そうすれば、きっとあの子達にも思いは届くはずよ。 |
アルエット |
私の思ってること。新しいエネルギーを作ってくれますように。お祈りは届きますように。
作ると・・お祈り。シエルお姉ちゃん。この言葉、名前にできないかな? |
シエル |
そうねえ。作るはクリエ。お祈りはプリエになるかしら。 |
アルエット |
クリエとプリエ・・。そっか!クリエとプリエ。私、あの子たちにその名前をつけてあげようと思うんだけど・・どうかな。 |
シエル |
そうね!あの子達にぴったりのとってもいい名前だと思うわ。 |
アルエット |
うん!ね、今からシエルお姉ちゃんの部屋に行ってもいい?あの子たちに早く教えてあげたいの! |
シエル |
ええ。(アルエットのぬいぐるみを見て)それにその子もぼろぼろのままじゃかわいそうだしね。 |
アルエット |
ふふっ。わーい!クリエ、プリエ、ふふっ、シエルお姉ちゃーんっ!早く、早くう! |
SE 駆けていく足音
M5 OUT |