― 別れのとき 

〜[ファントムとレヴィアタン] ロックマンゼロサイドストーリー18〜


 ゼロとの戦いを終えたレヴィアタンは、通路をよろよろと歩いていた。
 全身が痛むがメンテナンスを受けている時間はない。一旦仲間たちのもとに戻ろう。そしてゼロを迎え撃つ。
 そう考えながら歩くレヴィアタンは、通路に自分とは違う足音が響いてくるのに気づいた。顔を上げると、通路の向こうからファントムが歩いてくる。
「大事無いか?」
「平気…負けちゃったけど」
 レヴィアタンは自嘲気味に笑うと、ファントムを上目遣いに見やる。
「次はあなたが行くのね」
「ハルピュイアたちはエックス様のもとにいる。お主も一旦戻れ。拙者が時間を稼ぐ」
「勝てるの?」
「全力で戦う。それだけのことだ」
 ファントムは決然とした表情でレヴィアタンを見つめる。
「拙者が敗れたときはエックス様を頼む」
 ファントムの言葉に、レヴィアタンは一瞬戸惑いを感じて黙り込んだ。
「…と言うても、今のお主には難しい頼みかもしれぬがな」
 不意をつかれてレヴィアタンはたじろいだ。レヴィアタンがゼロに特別な感情を抱いていることを、ファントムは察しているのだ。
「ファントム…私は……」
 言い募るレヴィアタンをさえぎるように、ファントムはレヴィアタンの肩に優しく触れた。
「これはあくまで拙者の頼みで、強制ではない。お主はお主の道をゆけ。“エックス”様も分かってくださるだろう」
 レヴィアタンは不安げな表情を浮かべ、ファントムから視線をそらした。
 仲間としてファントムには生きて帰ってほしい。しかしゼロを倒すのは私だ。誰にも自分の獲物をとられたくない。たとえファントムであっても。
 ファントムはレヴィアタンの胸の内を推し量るように静かに見つめていた。レヴィアタンはファントムの視線を受け止め、再び口を開いた。
「ふふっ。誤解しないで。ゼロは私の敵よ。それは変わらない。私は私のやり方でゼロを…」
「そうか」
 じっとレヴィアタンに視線を注いだまま、ファントムは静かに頷いた。
「拙者は…」
 ファントムはレヴィアタンの柔らかな頬を両手で包み込む。
「お主と同じ時間を過ごせて楽しかった」
 そのまま手を離し、横を通り抜けていこうとするファントムに、レヴィアタンはまだ言うべきことがあるような気がした。レヴィアタンの脳裏に、ファントムと過ごした日々が走馬灯のように次々と浮かんでは消えていく。
 レヴィアタンはファントムが好きだった。
 ネオ・アルカディアの幹部であるがゆえに様々な問題に直面して嫌な思いをしたレヴィアタンの話や愚痴を、ファントムはいつも黙って聞いてくれた。
『誰にでもそういうときもある。こうして気持ちを話せるだけよいではないか』
 そう言って、どんなささいなことも黙って許容してくれたファントムは、レヴィアタンにとってかけがえのない大切な存在だった。
 レヴィアタンは自分の気持ちをファントムに打ち明けたこともあった。だが“エックス”の守護を己の存在意義とするファントムは、レヴィアタンの想いを受け止めてはくれたが、受け入れてはくれなかった。
 受け入れられなかった想いだが、それでもファントムはレヴィアタンが心を通わせた相手には違いなかった。
 このまま行かせたくない。
 そう思ったレヴィアタンは胸をくすぶる感情に突き動かされ、気がつくとファントムを呼び止めていた。
「ファントム!」
 ファントムが肩越しに振り返る。その顔はすでに命を賭した戦いに臨む戦士の表情をしていた。レヴィアタンは話すのをあきらめて、思いを込めて礼の言葉だけを告げた。
「…ありがとう」
 ファントムは笑みを浮かべて頷くと、ゼロのもとへと向かった。ファントムの背をレヴィアタンはじっと見送った。
 ゼロとファントム。どちらが勝っても自分は喜ぶことはできないだろうと、レヴィアタンは思った。
「あなたも…そうなのですか。“エックス”様」
 目の前にいない“エックス”に語りかけるようにレヴィアタンは呟いた。
 ゼロの持つゼットセイバーは、イレギュラー戦争当時、トップクラスのイレギュラーハンターのために開発された武器『十の光る武具』の一つだった。
 ゼットセイバーはゼロによって振るわれ、その後“エックス”がゼロから譲り受け、武器として所有していた。その剣をゼロが手にしている意味が、レヴィアタンは分かっていた。
 今のネオ・アルカディアを止めようと、“エックス”がゼロに託したのだろう。
 “エックス”が眠りにつかなければ、“エックス”がいてくれたら、ネオ・アルカディアも変わることもなく、ファントムもゼロと戦わなくてすんだかもしれない。自分もこんな苦しい思いをしなくてよかったかもしれない。
「お恨み…申し上げます」
 “エックス”がどんな思いで眠りについたのか、苦悩の果てに自分たちとの別れを選んだのかはよくわかる。
 しかし、言ってはいけないと思いながらも、レヴィアタンはその言葉を口にしていた。


[ END ]



Thank you for reading♪(^^)

時間軸はロクゼロ1のネオ・アルカディア本部でのゼロとレヴィアタンの戦いの直後、
ゼロとファントムの戦いの前になっています。

ゲーム中の台詞、リマスタートラック ロックマンゼロ、リマスタートラック ロックマンゼロ・テロスの
ドラマでのやりとりから、レヴィアタンはファントムは認めている(心を許している)感じだったので、
きっとレヴィアタンにとってファントムは頼れるお兄さんみたいな存在だったのかなあと思いながら
書いたらこんな話になりました。
レヴィアタンのファーストラブがファントム、セカンドラブがゼロということで(^^;)。


 

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