― 欲するモノ 前編 ―

〜[ゼロとレヴィアタン] ロックマンゼロサイドストーリー4〜



 ――ああ、退屈。

 エックス――正確にはコピーエックス――の命令に従い、イレギュラーを処理したレヴィアタンの心に浮かんだ感情。

 レヴィアタンは飽きていた。
 退屈な日常に。寒々しい使命に。



 かつてオリジナルエックスが人間とレプリロイドの共存と平和を願って創った理想郷“ネオ・アルカディア”。
 だが、現在はコピーエックスの意志の元、人間と優秀なレプリロイドのみが優遇され、そうでないレプリロイドは言われなき罪を着せられ処分の対象となる、レプリロイドにとっては地獄の世界と化している。
 しかしネオ・アルカディア、そして四天王にとって、エックスは絶対の存在。
 四天王は迷うことなくコピーエックスの意志に従った。
 それがたとえコピーであろうとも、自分達の守るべき主――エックスには変わりないのだから。



 エックス――コピーエックス――の住む居城『エリアX』。
 その謁見の間に四天王が揃い、主であるエックスの前に控えている。
「立派な働きだった」
 玉座に座ったエックスは、ハルピュイアにねぎらいの言葉をかける。
「君は忠実で勇敢な戦士だね」
「勿体無いお言葉。身に余る栄誉でございます」
 ハルピュイアは深く頭を下げる。
「今度のイレギュラー狩りですべては終わります。あなたの名の元に、世界に完全なる平和が訪れ、ネオ・アルカディアは真なる人類の理想郷となることでしょう」
「わかってると思うけど、人間は殺さないようにね。人間は誰であろうと守る。そして、人間は人間によって裁かれるべきもの……それがボクの方針だから」
「承知しております」
「お前の忠誠、大儀に思うぞ」
 エックスはにっこりと微笑む。
 ハルピュイアも自分に向けられた笑顔を素直に喜び、微笑みを返す。
(かっこつけてるわりに、こういったところはてんで子供で鈍いんだから)
 レヴィアタンはハルピュイアの様子を横目で見て、心の中ではんと笑う。
 一見、見るものを魅了する愛らしいエックスの笑顔。
 だが、レヴィアタンは気づいていた。
 ころころとよく笑うが、その目は笑ってはいないことを。
 エックスの笑顔はいつもどこか歪んでいて、そして濁っていた。
「では皆お疲れ様。下がってよいぞ」
 エックスの命令に従い、四天王たちは謁見の間を出て行く。
 将軍たちが出て行くのを、エックスは先ほどと変わらぬ笑顔で見送っていた。
 レヴィアタンはファントムの後をついて出て行きながら思った。
(エックス様……いつからでしょうね。そんな感情のない目で人を見るようになられたのは。以前は心から楽しげな笑顔をされていたのに…)
 まあ考えても仕方ない。
 エックスの命令に従うのが、四天王の役目。
 それがコピーであろうと、エックスの命令は絶対だから。
(ま、いいか……)
 レヴィアタンはそう割り切った。



 ああつまらない。
 ファントムは以前よりも無口になって、何考えてるかわからないし。
 キザ坊やや戦闘バカで暇つぶししてもいいけど、子供の相手は疲れるし。
 ネオ・アルカディアも、何もかもが歪んでる。
 昔はそうじゃなかったのに。
 でも私は、エックス様を、ネオ・アルカディアを守らなければならない。
 それが私の生まれた理由。
 そして、それが私の仕事だから。
(こんな退屈、いつまで続くのかしら?)
 そう思っていた。
 でも、それはある日終わりを告げた。
 そう……ゼロと出会った日から。



「キザ坊やや戦闘バカが色々と、噂してたから会えるのが待ち遠しかったわ」
 最初はほんの暇つぶしのつもりだった。
 でもその気持ちは、ゼロと刃を交えるうちに次第に変わっていった。
 エックスと共に戦った伝説の英雄の一人。
 紅きレプリロイド、ゼロ。
 英雄の名は伊達ではなく、その実力は本物だった。
 レヴィアタンは槍を前方に突き出し、掛け声と共にホーミング弾を放つ。
 ゼロはそれを巧みに避け、間合いを詰めると、レヴィアタンめがけてセイバーを振り下ろす。
 だがレヴィアタンは槍を回転させて氷の輪を作り、それを防ごうとする。
 が、ゼロの攻撃の方が威力は上だった。
 氷の輪はセイバーによって砕かれ、レヴィアタンは攻撃をまともに食らった。
 悲鳴を上げ、レヴィアタンは後方へ吹っ飛ばされる。
(こいつ、強い……!)
 同時に胸が高鳴る。
 一瞬の隙が自分の命を左右する、危険な戦いなのに、レヴィアタンはなんだかわくわくしていた。
 こんな気持ちは、感情は初めてだった。
 ゼロがとどめをさそうと、体勢を整えたレヴィアタンに迫る。
 レヴィアタンはとっさに槍をかざし、ホーミング弾を放とうとするが、その直前にゼロのセイバーが槍を弾き飛ばした。
「っ……!」
 武器をなくしたレヴィアタンめがけて、ゼロがセイバーを振り下ろす。
(やられる…?!)
 レヴィアタンは身構える。
 が、
「っ!」
 セイバーがレヴィアタンの頭に振り下ろされる直前に止まった。
「…………」
「…………」
 お互いが見つめあったまま無言になり、しばしの沈黙が流れる。
「くっ…、何故…殺さない?」
 先に沈黙を破ったのはレヴィアタンだった。
 そのままゼロを睨みつける。
「…………わからん」
「はあ?」
 思わずレヴィアタンは間の抜けた声を上げる。
 が、すぐに激昂する。
「手加減したってわけ?」
 ゼロは答えない。
 相変わらず無表情のままだった。
 それがレヴィアタンをさらに逆上させる。
「その気になれば、いつでも殺せるとでも言うつもり?なめられたもんだわ!」
 レヴィアタンの怒りの声などまるで意に介せずと言った様子で、ゼロは跳躍するとレヴィアタンから離れる。
「……気が向かん。それだけだ」
「………………」
 肩で荒い息をつきながら、レヴィアタンは釈然としない顔でゼロを見つめている。
「……お前、以前オレに会ったことはあるか?」
 唐突なゼロの問いに、レヴィアタンは目を丸くする。
「あるわけないでしょ」
「………ならいい」
 ゼロは今まで出会った四天王たちに誰かの面影を感じていたが、レヴィアタンにはとりわけそれを強く感じていた。
 遠い記憶におぼろげに見え隠れする青いレプリロイド。
 レヴィアタンは外見といい、雰囲気といい、そのレプリロイドによく似ていた。
 ゼロのそんな胸中を知らないレヴィアタンは怪訝そうな顔をする。
「今度会ったときは手加減なんていらないからね。あなたの実力を見せてちょうだい」
 もうゼロが戦う気も、自分を殺す気もないと知ると、レヴィアタンは捨て台詞を吐き、自分を転送させる。
 転送されて、消えていくレヴィアタンを見つめながら、ゼロは釈然としない思いを抱いていた。
 ゼロは自分に問う。
 敵である彼らに何故見覚えがあると思うのか。
「……シエル。転送してくれ」
 そのうちわかるだろう。そんな結論に達すると、ゼロはシエルに通信を入れた。



 同じ頃。レヴィアタンは心の内に、自分でもよくわからない、奇妙な感情が芽生えているのを自覚していた。
 エリアXに戻り、メンテナンスを受けながら、レヴィアタンはゼロと戦った時のことを考えてみる。
『お前、以前オレに会ったことはあるか?』
 ゼロの言葉が脳裏に甦る。
 その言葉の意味を考えながらレヴィアタンが思い出したのは、自分を生み出した親でもあるオリジナルエックスだった。


 いつも優しい笑顔を向けてくれたが、瞳は寂しそうだったエックス。
 そんなエックスが心から幸せそうな顔をするのが、ゼロのことを話してくれた時だった。
『ゼロはね、ボクのただ一人のお友達……』
『ゼロだけだった。傍にいてくれるのも、心を分かってくれるのも……』
 そう言ってゼロのことを話した時の笑顔は、見ているレヴィアタンまで幸せになるような笑顔だった。
 だから、レヴィアタンはゼロを一目見てみたいとは思っていた。
 まさか敵として出会うことになるとは、その時は思ってみなかったが。


 ゼロは、ファントムに雰囲気が似ていた。
 すべてを見透かしているかのような、達観した目をしていて、自分たちと違う世界に生きているような、不思議な雰囲気を持つレプリロイド。
 浮世めいた雰囲気といえば、エックスもそうだった。
 レヴィアタンたち四天王のDNAやパーツの提供者であり、生みの親でもあるエックスは、他のレプリロイドとは違う存在。
 その小さな体にはいまだ解明されていない、多くの謎が秘められている。
 その体に秘められた秘密を解明したい――研究対象としても、その道の者には魅力的な素材でもあるエックスは、科学者たちの好奇の目に常にさらされてきた。
(そんなエックス様が好きになるのは、きっとこういった人なんだ)
 レヴィアタンはゼロを見た時そう思った。
 だが、わからないことがある。
 ゼロのことを思う度に感じる奇妙な感情。
 それは一体何なのか。
 その答えが出たのは、再びゼロと対峙した時だった。


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