〜[ゼロとレヴィアタン] ロックマンゼロサイドストーリー4〜
コピーエックスを倒す――そのためにエリアXに潜入したゼロ。 その前に、再びレヴィアタンは立ちはだかった。 「もう少しあなたと遊んでいたかったけど、これ以上先に進まれちゃ困るのよね」 レヴィアタンはふんと笑う。 「悪いけど、本気出させてもらうわよ」 それが戦闘開始の合図となった。 それはレヴィアタンにとって、厳しい戦いだった。 その戦いの勝敗を決したのは、お互いの力などではなく、意志の強さだった。 レヴィアタンには優越感と自分への過信があった。 自分はネオ・アルカディアの四天王。 エックスから生まれ、その力を分け与えられた、レプリロイド以上の存在だというプライド。 それが甘さとなったのだ。 対するゼロは、迫害されるシエルたちレジスタンスを救うという確固たる信念と強い意志を持ち、自分すらも第三者として客観的にとらえる冷静な性格をしている。 レヴィアタンの執拗な攻撃を冷静にかわし、的確な攻撃を浴びせてくるゼロ。 その意志と力の前に、レヴィアタンは再び追い詰められていく。 ついに、ゼロのセイバーに槍が叩き折られる。 短い声を上げ、レヴィアタンは慌ててゼロから離れ、間合いを取る。 槍が折れ、使いものにならなくなった今、至近距離に入られたら、自分がやられるのは必至だった。 レヴィアタンはゼロを見つめる。 どくんと胸が高鳴る。 それは、戦いによる緊迫感からくるものとは違う種類の鼓動。 ゼロを見つめる毎に、自分の胸が熱く熱く高鳴る。 この時になって、レヴィアタンははっきりとわかった。 自分の心に芽生えたゼロに対する奇妙な感情が何なのか。 同時にレヴィアタンは、もう一つの事実を実感していた。 自分はエックスのパーツを元に設計され、エックスのDNAからクローニングされて生まれた存在。 (エックス様……私たちは同じDNAを共有する、まごうことなき親子であり、兄弟であり、姉妹なんですね) レヴィアタンは心の内で、記憶の中のエックスに語りかけていた。 (エックス様は私、そして私はエックス様なんだ……) 「ふふ…完敗だわ」 レヴィアタンは肩を押さえながら、ゼロを見る。 プライドの高いレヴィアタンが、自ら負けを認めたのはこれが初めてだった。 ゼロはそれを聞いて、もうレヴィアタンに戦う気はないと判断し、セイバーを下ろす。 無駄な戦いは体力を消耗するだけだから。 レヴィアタンは目を伏せて、意味ありげに笑う。 「私はずっと……あなたみたいな人を待っていた気がする」 そう、自分をこの怠惰な日常から解き放ってくれる存在。 自分を夢中にさせてくれるもの。 「……………」 ゼロは相変わらず仏頂面だった。 その目がレヴィアタンを静かに見据える。 初めて自分を見た時と同じ目だ。 あの時、何故ゼロが自分に会った事はあるのかと聞いたわけも今ならわかる。 (ゼロは私をエックス様だと思ったんだ) そう思うレヴィアタンの心がちくりと痛んだ。 たしかに私はエックス様でもある。 でも私は私。 「あなたは誰にも殺させないから……あの戦闘バカみたいな無粋なヤツなんかに」 宣言するかのように、レヴィアタンはゼロに言い放つ。 「自分で天誅を食らわすとでも言うのか」 「ふふっ……さあ?」 レヴィアタンは楽しげに笑う。 だが、その目は冷ややかだ。 獲物を目にしたハンターの目。 その時。 レヴィアタンがいきなりゼロに飛び掛かる。 予想もしない行動にゼロは身構え、セイバーの柄を握る指に力を込める。 が、レヴィアタンの行動はゼロの予想したものとは違っていた。 「!?」 ゼロの唇に感触が伝わる。 それは、軽く唇をかすめる程度のキスだった。 思いがけないレヴィアタンの行為に、ゼロの動きが一瞬止まる。 それを逃さずレヴィアタンは跳躍すると、再びゼロから離れた。 ゼロから離れた位置に移動すると、口元に人差し指を当てて悪戯っぽく笑う。 「光栄に思ってね。この私に触れられたんだから」 キスという行為。 それはレプリロイドにとっては、ある意味重要なものであった。 レプリロイドは、人間と似ているが、人間とは異なる存在。 厳密に言えば、性別がない存在である。 当然のことながら、性行為というものも出来ない。 レプリロイドにとって、相手に愛を伝える手段は言葉、そして抱きしめることと、キスぐらいしかない。 だから、キスはレプリロイドに出来る最大の愛情表現。 レヴィアタンは目を細める。 「約束の証……そう受け取ってくれていいわ」 「約束?」 ゼロは怪訝そうな顔をする。 「そう」 レヴィアタンはすっとゼロを指差す。 「あなたは……あなたを倒すのは私。私は必ずあなたの命を貰うから。約束したわよ」 レヴィアタンは薄く笑った。 「あなただけは…いつかきっと、私の手で……」 そう言って、レヴィアタンは転送されて消えていく。 ゼロは内心呆気に取られて、レヴィアタンがいた場所を見つめていた。 そう、あなたを私のものにしたい。 戦うことであなたを感じることが出来るのなら……。 ゼロのことを想う度、穏やかな水面のようなレヴィアタンの心に波紋が広がる。 激しい揺らぎに囚われていく。 同時に、甘く切ない痛みも感じ、苦しくもなる。 それでもレヴィアタンはご機嫌だった。 この想い、失くしたくはない。 そう、これが恋…。 「フフッ…ゼロ、待ってたわ」 氷の神殿。 ユグドラシルへ向かうゼロの前に立ちはだかったレヴィアタンは、獰猛な笑みを唇に刻んだ。 「そこを通せ」 ゼロの言葉にレヴィアタンはくすっと笑う。 「エックス様が眠ってらっしゃるユグドラシルに行こうとしてるんでしょ?」 オリジナルエックスが眠るネオ・アルカディアの最深部ユグドラシル。 そこに侵入者――エルピスが向かっているという伝令は、レヴィアタンの元にも伝えられていた。 ゼロは相変わらず無表情のまま、レヴィアタンを冷ややかに見る。 「お前も、ファーブニルのように無駄な戦いを仕掛けるつもりか?」 「あら。私は戦闘バカと違って、ちゃーんと仕事してるわよ?」 レヴィアタンはひょいと片手を上げる。 「キザ坊やがユグドラシルに向かう者は誰であろうと倒せって言ったから、そうしてるだけ」 「オレはエックスを助けに行かなければならない」 それを聞いて、レヴィアタンの顔から笑いが消える。 「…………。エックス様のことは言わないで。私だけを見て欲しい」 レヴィアタンは槍の先端をゼロに向ける。 涼しげで冷めたレヴィアタンの目がゼロを見据える。 だが、いつものレヴィアタンの目とは違った。 今のレヴィアタンの目は、その奥で様々な感情が渦巻いているように思えた。 (わかってる。あなたはユグドラシルへエックス様を助けに行こうとしてるってこと。でも…) 「私もファーブニルのバカがうつったみたい。あなたのこと考えると…ダークエルフのことなんてどうでもよくなっちゃう…」 (そう、ダークエルフなんてどうでもいい。どうせ、あんなエルピスとか言う落ちこぼれ、たいしたことないわ。エックス様命のキザ坊やが返り討ちにするでしょ。私は……) レヴィアタンの周囲に冷気が渦巻き始め、辺りの温度が急激に下がっていく。 ゼロは身構えると、セイバーの柄に手をかける。 「……………」 戦うしかないのか…。 そう思い、ゼロは心の中でため息をついた。 (私は……戦闘バカみたいに戦うことしか考えられなくなっている) いつも血気盛んで、戦うことが生きがいのファーブニルの姿を、レヴィアタンは思い浮かべた。 (だけど、戦うことであなたを感じることが出来るなら……それでもかまわない。戦っている間は、あなたはまぎれもなく私だけを見て、私だけを感じてくれてるから) エックスから分け与えられたパーツを元に設計され、DNAクローニングによって生み出された四天王たち。 ハルピュイアは崇拝するエックスのためなら、自分の命を差し出すことすら厭わないほどのエックス思い。 ファーブニルはエックスから与えられた力、そして自分自身を信じ、その燃える闘争心と想いに身と心を委ねている。 ファントムは、己の信念――エックスのために生き、エックスのために死ぬ――のままに生き、ためらいもせず自爆攻撃までして、主であるエックス――コピーエックスを守ろうとした。 エックスもまた、世界のために、人々を守るために、自分の体をダークエルフ封印のために差し出した。 守りたいもの、信じるもの、強く想いを寄せるものに、自分の体を、心を捧げる。 レヴィアタンも、そんなエックスのDNAを強く受け継いでいる。 だから、レヴィアタンは自分の心を捕らえて離さない存在――ゼロとの戦いにその体と心を捧げた。 (エックス様、申し訳ありません。だけど私、ゼロのことを……。私はエックス様と違って優しくないし、あきらめも悪いんです) 世界のためだって割り切れない。 今目の前にあることを優先させたい。 いけないことだと分かっている。 でも、この気持ちは偽れない。 「たとえ、世界が滅びても……あなたさえ倒すことができれば私…幸せなの」 レヴィアタンがすっと目を伏せた。 同時に氷の力が溢れ出る。 「さぁ、いくわよ」 レヴィアタンは氷の力を解き放った。 応じてゼロもセイバーを抜き放つ。 さあ、命をかけた遊びの始まり。 楽しませてね……ゼロ。 今だけは、あなたは私のもの。 そして、私はあなたのものだから。 [ END ]
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