― Thank you for your love 前編 ―

〜[ゼロとエックス] ロックマンゼロサイドストーリー6〜

 

 オメガにとどめをさしたとたん、爆発と共に辺りが光に包まれた。
 光の眩しさに思わず目を瞑ったゼロは、次の瞬間、爆発の衝撃を受けて勢いよく後方へと吹っ飛ばされる。
 打撲による痛みをこらえつつ、再び目を開けた時―――ゼロは自分が見たこともない場所に倒れているのに気づいた。
 死闘の舞台となった忘却の研究所も、近くにいたはずのエックスや四天王達の姿も見当たらない。
 まるで『空虚』としか言いようがない、どこまでも続く、何もない白い空間が広がっていた。
 ゼロは立ち上がると、辺りを見回す。

――オレはオメガを倒した。
――そして目の前が白い光に覆われて……。

 そんな事を考えるゼロに
「ゼロ……」
と、背後から声がかかる。
 振り向くと、そこにいつの間にかエックスが立ってゼロを見つめていた。
「エックス……やっと会えたな」
 ゼロはエックスに歩み寄ると、その頭にぽんと手を置く。
 エックスは嬉しそうにはにかんだ。
「……ありがとう」
 いきなり礼を言われて、ゼロは面食らう。
「何がだ?」
「バイルから世界を守ってくれて………」
「オレはオレのやりたいようにしただけだ。それに、バイルみたいなヤツは嫌いなのさ」
 ゼロらしい返答にエックスはくすっと笑う。
「あの時のこと…覚えてる?ほら、ハンターベースで初めて君と会ったときのこと………」
「………?」
 ゼロはいぶかしげにエックスを見つめる。
「君と過ごした時間はとても楽しかった。戦いは辛かったけど、いつも隣に君がいてくれたから……。君といると、辛い事とか 全ての痛みさえ…勇気に変わって、ここまで頑張ってこれた」
 エックスの顔に感慨深そうな表情が浮かぶ。
「君がいてくれたから、ボクはボクでいられた……。君と過ごした時間…ボクは本当に…楽しかった……」
 そこまで言って、エックスはうつむいた。
「それはきっと……神様がくれた素敵なプレゼントなんだ」
 その声は微かに震えていた。
「エックス…?」
 ゼロはエックスの頬に片手を当てて、顔を上げさせる。
「…………」
 エックスはいつのまにか泣いていた。
「どうしたんだ?」
「君に出会えたことが一番嬉しかった……。君が戻ってきたら、ネオ・アルカディアでハルピュイア、ファーブニル、レヴィアタン、ファントム……みんなと一緒に暮らせたらって、ずっと夢見てた……」
「バイルが残ってるが、大方終わったんだ。お前だって……」
 エックスはふるふると首を振る。
「ボクにはもう…ほとんど力が残っていない…。この世界にいることも難しくなってきたよ…」
 ゼロは愕然とする。理不尽すぎる運命。
 その運命に抗おうという気持ちがゼロの中に湧き上がる。
 だが、どうしようもできないということも、ゼロの冷静な頭は理解していた。
 エックスはゼロをまっすぐに見つめる。
「ゼロ…君にこの世界を任せたい……。まだ世界からバイルの脅威は去っていない……。人間とレプリロイドを守ってあげてほしい…」
 これでお別れだ。エックスの態度はそう告げていた。
「ゼロ…君…なら…できる…。君なら…」
エックスの姿が次第に薄れていく。
「行くな!エックス!」
 ゼロは思わず叫ぶと、エックスの体を抱き締める。
「ゼロ……」
 腕の中のエックスはゼロを見上げる。その瞳には決意の色が見えていた。
「…シンデレラが王子様と一緒にいられる時間にタイムリミットが来たんだよ。もう行かなくちゃ…」
 エックスは泣き声混じりの声で諭すように言う。その目には涙が溢れている。
「エックス、それは違う。王子様はガラスの靴を頼りに、シンデレラを探し出すんだぞ」
「それは………物語の中だけの話だよ」
 ゼロの言葉にエックスは寂しげに微笑む。
「……何も悲しむ事なんかないよ。ゼロは元の生活に戻るだけだ。今の生活に……」
「…………」
「それに、ゼロには……誰よりも君のことを想って、支えてくれてる人がいるじゃないか」
「エックス……」
「シエルさん……あの人の気持ちに嘘偽りはないよ。どうか大切にしてあげてね。ボクは君が幸せになってくれるのが一番嬉しいから……」
 エックスの瞳から、涙がまた一筋零れ落ちる。
「ボク…君に会えて本当に良かった……さよなら…ゼロ。ボクの王子様」
 ゼロにはもはや言うべき言葉がなかった。
 ただエックスの体を強く抱き締めてやる。
 エックスの体が希薄になっていき、抱き締めているはずの体の感触が消えていく。
「ありがとう……」
 小さいがはっきりとしたエックスの声が聞こえる。
 そして、エックスはまるで辺りに溶け込むかのように、光となって消えていった。



 それが、ゼロが覚えているエックスとの最後の会話だった。



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